since 2007.8 by K-ichi


日没@舞阪(遠州灘)

日没をカシバードで再現
どうしても少しズレる、カシバード(カシミールの鳥瞰機能)の日の出。昨年もあれこれ考えたが、とりあえずの結論しか出なかった。
先日、富士山よりさらに遠方の日没が撮れたので、ふたたび検証してみる。

冒頭のものは、遠州灘から紀伊半島に沈む夕日を撮影している様子。左脇に見える機材で映像を撮り、それを計測材料とする。
渥美半島の大山おおやま、鳥羽~伊勢の朝熊ヶ岳あさまがたけあたりは肉眼でも見える。


まずは、今回撮れた舞阪(遠州灘)の日没から。


日没1秒前

日没時のカシバード画像(加工あり)

日没時のカシバード画像(気差1.394)

海面から僅かに出た頂(矢印)が確認できる
撮影は、2015年2月16日、浜松市西区舞阪町より。f=900mm相当、距離は144km。

最初の画は、日没の瞬間を映像から切り出したもの。
ここに見える山並みは、三重県と奈良県の県境、台高山脈だいこうさんみゃくの一部。太陽のかかる富士山形の、向かって右肩のピークが、1380.3mの千石山。

2枚目、カシバード画像には手を加えてある。
下位蜃気楼(浮島現象)を表現するため、水平線上8px分を下へ反転コピーした。
また、太陽の位置を合わせるため、同じサイズの円を描いて移動させた。61px、約0.1°下げると、実測位置に合致する。使用ツールはMSPaint。

前回検証時には、大気差をいじる設定があるのを知らなかった。地上物に対する気差補正(地上大気差補正)は、地球半径を伸縮させることで実現している。
3枚目の画像は、山並みを太陽に合わせるために、気差を1.394に設定したもの。値は、千石山近辺各所での光の消えるタイミングから割り出した。
太陽と山とは合うが、海面がだいぶ下がり蜃気楼が描けない。ちなみに、1秒遅が気差0.01減程度に相当し、表示時刻は「1秒はズレない程度」の精度がある。

最後の1枚。太陽が半分ぐらい沈んだ画を見ると、矢印部分に「小さな黒い染み」が確認できる。これは、海面からわずかに出た山頂が浮島現象で点になったもの、と思われる。
2枚目の気差をいじらない画に合うので、前述の方法は旗色が悪い。気差はデフォルト(1.156)を基本に考えることにする。


次に、昨年のダイヤモンド富士(日出)のおさらい。


ダイヤモンド富士の日出位置(▲印)

ダイヤモンド富士カシバード画像(加工あり)

ダイヤモンド富士カシバード画像(気差1.75)
撮影は、2014年7月8日、浜松市天竜区春野町より。f=1400mm相当、距離は87.4km。

1枚目は、編集し直した映像からのキャプチャ。日の出の瞬間は富士山が見えないので、その位置に▲印を記す。

こちらもカシバード画像と比較してみる。
2枚目からは、74px=6.94′下げると実測に合うことが判る。日出時刻、その位置、剣ヶ峰をまたぐ瞬間などもぴったり合う。
3枚目は、気差補正で合わせ込んだもの。1.75にまでする必要がある。


以上の2例より、地球と天球とのズレではなく、太陽が本来より浮きすぎである、と想像できる。
浮き方の傾向を見るため、さらに近場への日没データも拾ってみることにする。


日没1秒前

日没時のカシバード画像(加工あり)

N/A
日没時のカシバード画像(気差-.--)
撮影は、2015年3月14日、浜松市北区大原町より。f=900mm相当、距離は23.1km。

山並みは、静岡県と愛知県との県境。以前行った富士見岩(415m)~廃寺跡あたり
日没ポイントは、372.5三角点の東から、南に伸びる支尾根の356m付近。

2枚目、太陽円を下方に移動する方法では、76px=7.13′で合致する。
3枚目、気差値での合わせこみは、地球をベテルギウス並(109000倍ぐらい)に膨らませてもダメだった。地球がほぼ地平になっているので、標高74mから見る23.1km先の356mは0.699°。カシバードは0.608+0.119=0.727°に日没光点を描くので沈まない。
なお、標準の気差値でも17:51:53には同じ位置に没するが、実際の日没時刻17:51:23とはかなり違うので正しくない。


その他、拾い出した数値をまとめておく。

撮影距離カシバード画像(気差補正値を変更)に対する実測の仰角差 ※1日出没時の太陽頂仰角 ※1※4日出没時の光点仰角 ※1※4同左の大気差 ※2※3備考
1.0001.0601.0981.1351.1561.3941.7501.09E5
144km-10.96875′(-117px)-8.8125′(-94px)-7.5′(-80px)-6.375′(-68px)-5.71875′(-61px)0′(0px)5.625′(+60px)27.84375′(+297px)-0.040625°-0.0625°35.3678′舞阪(遠州灘)での日没、一部は50km以遠のみ描画
87.4km-10.125′(-108px)-8.8125′(-94px)-8.0625′(-86px)-7.3125′(-78px)-6.9375′(-74px)-3.46875′(-37px)0′(0px)13.40625′(+143px)1.5328125°1.5328125°20.7476′ダイヤモンド富士(2014)
23.1km-8.0625′(-86px)-7.6875′(-82px)-7.5′(-80px)-7.3125′(-78px)-7.125′(-76px)-6.28125′(-67px)-5.34375′(-57px)-1.78125′(-19px)0.61875°0.6078125°27.7555′大原(三方原)での日没
※1 画像読み取りは、1px=0.09375'で計算。有効桁数は考えない。
※2 大気差は、「国立天文台暦計算室 こよみ用語解説 太陽や月などの運動」の計算式を使用。
※3 Wikipediaのリンク先などで計算すると、年間通した気圧、気温範囲で、2′程度は変化するらしい。
※4 気差1.156(標準値)でカシバード画像より読み取る。

以上の結果などからまとめると、
  • 地球は丸い(=球差がある)ので、そもそもの浮きすぎ量(気差1.000での値)は遠方の方が大きい。
  • 遠方の方が、地上大気差(カシミールでは「気差」)補正は効くので、デフォルト(気差1.156)での浮きすぎ量は小さくなる。
  • ある程度遠方であれば、気差補正で合わせこむこともできるが根本解決ではない。近距離では、それは不可能。
  • 位置関係のシビアな金環日食が再現できるので、天体同士の相対精度は高い。
  • 日出没時刻での方位角は正確なので、天体の位置精度はおそらく高い。
ということで、太陽の大気差(天体大気差)補正が過剰、と予想する。
標準状態での差は0.1°前後だが、視直径に対しては1/5に相当する。これだけでも出没位置はだいぶ変わるので、ベイリービーズ状態を狙うには精度が足らない。
ただ、一律にいくら下げれば良い、というわけでもないところがややこしい。気差を変える=大気の屈折率が変わる、であるのに、天体の位置は変わらない。このへんが絡んでいるのかもしれない。


「予想」の補強になりそうな事例も挙げておく。

以前にも使わせてもらった、森住氏によるダイヤモンド富士でも確認してみる。他人による別機材での撮影であり、またかなり遠方の写真。
日没途中のためシビアな読み取りはできないが、太陽が1/5ずれていれば雰囲気で判りそう。


森住さんの写真に補助線を引く

カシバード画像を加工

カシバード画像(気差1.35)
森住氏のサイトから借りるのは、2002年1月28日の霞ヶ浦越しの写真。撮影地は行方市富田、富士山までは174km余。

まず、水平線で写真の水平を確認し、太陽中心線と富士山頂との位置関係で、方位角を読み取る。
そしてカシバードで、記載の時刻のころを表示し、方位角が合う時刻を得る。前述らと同様に、画像と写真とを見比べながら太陽位置を下げてみる。

撮影時刻は16:56とあるが、16:55:25あたりが合う。太陽円も、0.1°ほど下げたい。
気差設定値を1.35とした画像も並べておく。舞阪の日没より遠方のせいか、気差値もやや小さめで合う感じ。


もう一例、2011年のダイヤモンド富士でも見てみる。


2011年ダイヤモンド富士(f=135mm相当)

2011年ダイヤモンド富士(気差1.75)

2011年ダイヤモンド富士(気差1.156)
2011年6月30日のダイヤモンド富士。浜松市天竜区春野町より。135mm相当で撮影。富士山までは89km。2014年とは別の場所。
デジカメ手動撮影なので、時刻や日出位置は正確には判らない。右側がまず光り、光度が増す。すぐにその左でもう一点光り、そこを撮影した。
光点の形状から、右側の山腹が日の出位置と思われる。

前例に倣えば、74px下げて円を描くか、気差を1.75に変更するかで実測に合うはず。後者で試すと、4:47:35ごろ、ちょうどいい頃合に2点が光る。
標準値の1.156では、剣ヶ峰をまたぐ形になり合致しない。


以下に、計測の元とした映像を付す。
舞阪(遠州灘)での日没、ダイヤモンド富士(2014)の日出、大原(三方原)での日没、の3本。

ダイヤモンド富士は、以前の記事のとおり、1400mm相当、それ以外は900mm相当での撮影。
カメラは、ケンコー製DVS2500HDを使用。光学固定焦点パンフォーカスで、f=45mm相当。レンズは外れないので、コリメート撮影とする。
コリメート接続する相手方は、1400mm時は、ビクセン製スーパーハレーSR-1000(D=100mm、f=1000mm)。これにEr.32mmを着け、31倍とする。
900mm時は、トミー製ファミスコ60S(D=60mm、f=400mm)にK.20mmを着け、20倍とする。

映像には、同ファイル内にGPSロガーの時計も映しこんでおく。あとからAviUtlで、編集も兼ねて日時を焼きこむ。誤差は1秒以内。


2015/2/16 紀伊半島への日没@舞阪(遠州灘)
以前のダイヤモンド富士による検証では、太陽が浮いているのか、天球が西にズレているのか判らなかった。判断のため、反対方向の日没を撮ることにする。精度を上げたいので、なるべく遠方を狙う。
当初はスーパー林道周辺を探したが、山並みは40km台がせいぜい。山に登れば100km超も可能だが、見えるとも限らないイベントで通うのはつらい。逆に浜へ出れば、遠州灘から紀伊半島が見えることが判った。

冬は晴天が多く、車で行ける場所でもある。楽勝かと思いきや意外とてこずった。
西高東低の空っ風の日は、浜松はよく晴れる。ところが伊勢湾、紀伊半島には、琵琶湖あたりを越えてきた風で雲がかかるよう。雲か、山か、という仰角1°そこそこの雲に遮られることも複数回あった。結局、20日がかりの大仕事。

撮影設定は、-2.0EV以外は標準値。日没間際には、0EVに切り替えている。17:32:54日没。

太陽は、17:30:20ごろに海面に接する。このとき、下に流れ落ちるように伸びる。その後17:30:36ごろまで、Ω形(右半分)に見える。世間ではこれを「だるま太陽」などと呼ぶらしい。
だるま太陽も、ちょこっと出た山頂が浮島に見えるのも、山並みの下に太陽が入り込むのも、下位蜃気楼による現象。逃げ水と同じように、鏡に映ったように見える。


2014/7/8 ダイヤモンド富士@天竜スーパー林道
昨年のダイヤモンド富士映像を編集しなおしたもの。後のチェックで、0.5秒ほど時刻のズレがあることが判ったので修正した。

日の出の瞬間には、富士山自体は見えないので、そのポイントに▲を付してある。
バックではウグイスが合唱している。4:51:23日出。


2015/3/14 日没@大原(三方原)
比較的近場を狙った日没。

生えている木々の影響が少なく、かつダイヤモンド富士より十分近距離なことを考えあわせると、20km~40kmあたりが妥当だろうと見当を付ける。
スーパー林道からの山並みは40km程度。ちょうどよさそうだが、いまは冬季閉鎖中。山並みの起伏が比較的緩い印象もある。平坦地に沈まれては位置計測が難しい。

ふと見渡せば、適度に凸凹な県境尾根が見える。天竜川や磐田原大地からなら30km超、三方原大地の東端からなら20km余ある。アクセスを考え後者にする。
三方原大地では、馬鈴薯や大根が一大勢力を持っている。おかげで各所で山並みは見通せるものの、防風林や建物により途切れ途切れになっている。対象が近いので、通り一本の移動で山ひとつズレてしまう。障害物と日没位置とを精査する必要があり、意外と面倒だった。

撮影は-2.0EVで始める。日没近くで-1.0EVに、間際で0EVに切り替えた。17:51:23日没。


最後に、検証に際し、いくつか気づいた点があったので挙げておく。
画角(写角)が細かく設定できない
画角は度単位の設定のため、望遠側がかなりさみしい。500mm超は、642mm、963mm、1926mmの3つだけ。焦点距離を合わせるには、画像保存後に切り出すしかない。もうひと桁、細かく設定したい。
蜃気楼が描けない
下位蜃気楼は普通に見られる現象らしい。簡易でいいので描くオプションがあるとうれしい。
カシバード画像に年月日がない
太陽を描けば時刻は表示される。細かな位置情報や標高や、あまり気にしない偏角まであるのに、年月日がない。
カシバードのプレビューを強力にしてほしい
PCの性能はどんどん上がるので、プレビューもパワーアップしてほしい。もう少し遠方まで描いたり、特定の山を常に表示したり。見通せるか否かはともかく、近景と100km先の富士山とのバランスをグリグリ動かして調整、のようなこともしたい。
2015/5/11追記 : 代替機能として、目標を設定する際に「目標を固定する」にチェックを入れることで、カシバード位置を移動しても常に目標に向わせる設定が可能、とのこと。
地図に切り替えて撮影すると、なぜか海面が上がる
撮影場所を特定するために、[最新]の空中写真を表示し、位置を決めてカシバードを起動。その後、ウォッちずなどの*.matに切り替えて撮影すると、海面が数分上がってしまう。カシミール上でカシバードの位置を再設定する必要がある。
改善されれば嬉しいのだが……
なお、この記事ではVer 9.1.5を使用した。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

2023年4月12日 スパー地図セットを試用してみました。全く、使えない事が判明しました。2023年1月1日 日本テレビが、ダイヤモンド富士を本栖湖の竜神池から撮影、報道しました。カシバードで2023年1月1日 位置_竜神池 目標_富士山剣が峰 でやってみましたところ、ズレ過ぎです。前後一か月間、ダイヤモンド富士になる日を探しましたが、全く、確認できませんでした。2023年4月9日に、湘南の森戸海岸でダイヤモンド富士を富士山の頂上の真中で撮影しました。カシバードで、2023年4月9日 位置_湘南の森戸海岸 目標_富士山剣が峰 で撮影と確認を行ったところ、撮影の最適日が、4月7日または、4月8日と言う結果になりました。買おうと思いましたが、これでは、買えない。何か、設定や、ソフトウェアの更新が必要なのでしょうか? 知っている方、教えて下さい。

K-ichi さんのコメント...

位置標高の多少のズレで見え方は変わりますし、気温気圧で浮き上がり方(大気差、気差)も変わるようです。どれだけ正確に計算しようとしても、不確定要素は一定量含まれて限界があります。

このソフトは太陽を36′で描いています。実際の太陽は32′程度なので、それだけでも見え方は違ってきます。何度か掲示板で指摘しましたが、直す予定はなさそうです。ちなみに月は見かけが大きく変わり、スーパームーンで36′ぐらいに見えます。
この記事より後でも検証っぽい事をやっていますが、どうも地形図と天球の座標系が一方向にズレている気がしています。日本では太陽が斜めに昇りますから、これら微妙な不具合がより大きく見えてしまうのだと思います。
とはいえ天体同士、地形同士の計算は正確で、座標系のズレも太陽半分もない程度です。どっちにどれだけズレるかなどの癖を把握して使ってみてはいかがでしょう。媒体で販売もされていますが、ダウンロードして使う分にはフリーソフトでもあります。

コメントを投稿

.

関連記事


この記事へのリンク by 関連記事、被リンク記事をリストアップする」記事

ブログ アーカイブ